中島みゆきが前作から1年もたたない10月3日に新アルバム「I Love You,答えてくれ」をリリースする。前後して2年ぶりのコンサートツアーもスタート。デビューから30余年、なおヒット曲を生み、老若問わず新たな聴き手をひきつける創造力の源泉はどこにあるのだろう。
「前作が、お疲れさま、と寝かしつける子守歌のようなアルバムなら、今回は、起きて働け~って鼓舞する感じかしらね」
前作「ララバイSINGER」と2枚組みのつもりで作った新作はジャケットからして勇ましい。荒々しい筆文字タイトルの背後には、金びょうぶを前にした懐剣姿の本人。TOKIOに提供した「本日、未熟者」や「サバイバル・ロード」「背広の下のロックンロール」など、力強い調子の曲が並ぶ。歌詞の主人公も、踏ん張って、頑張っているような男たち。初期の「女歌うたい」のイメージが薄まっているようだが……。
「いまの時代を一緒に戦おう、という戦友意識は鮮明に出ているかもしれません。でも、男女ってあまり関係ない。まず人間であろうというところから始めたいから。たとえば転んで痛いところまでは男も女も同じでしょ」。転んだ後、痛みに耐えて立ち上がるか、倒れたままだれかの名を呼び続けるか……。そんなところから歌詞の主体は決まっていくという。
とはいえ、雄々しく感じさせる一因には声質の変化もある。舞台の「夜会」を続けているうち、音域が広がり、3年くらい前に、アルトだと思っていた声質がテノールだとわかった。「実はTOKIOの長瀬智也くんとキーが同じなんです。特に力をこめて歌うと男っぽくなる」
そのTOKIOに提供し前作に収められた「宙船(そらふね)」が高校野球の入場行進曲になったり、「地上の星」が大ヒットしたり、21世紀になっても話題は尽きない。70年代から四つの年代にわたり、シングルチャート1位を獲得した唯一のアーティストでもある。
「でもブームにはなったことはないのね。ブームを作る人は情報感度が良くないとだめだけど私は違う。速さを競うのはとうにあきらめていて、ならば、どう遅くいくかを極めてやれ、と。時代がどんどん進み、人も前のめりに動いていくなか、落とし物がいっぱいあるでしょう。それを拾って歩くのもいいかな、と」
いま何が落ちている?
「生身、かな。携帯電話とか機械がすごいことになっているなかで、生身がちょっと待ってよ、と追いすがってるように見える。しめしめ、こいつを拾って曲を作ってやれって感じかな」
◇全国ツアーは29日から。事務局(048・290・7138)
asahi.comより引用